津地方裁判所伊勢支部 昭和37年(ワ)93号 判決 1965年7月20日
原告 国
国代理人 林倫正 外五名
被告 久保次三郎
主文
被告は原告に対し金参百八拾壱万九百九拾六円及びこれに対する昭和参拾七年六月拾九日より完済まで年五分の割合による金員を支払うこと。
訴訟費用は被告の負担とする。
この判決は原告において金百弐拾万円の担保を供するときは仮りに執行することができる。
事 実 <省略>
理由
原告(所管庁松阪税務署長)が滞納会社に対して昭和三七年五月二八日現在納期限を経過した昭和三三年度法人税金四、七二四、七七九円、旧利子税金二、六二四、〇八〇円、旧延滞加算税金二四一、六〇〇円、滞納処分費金五〇円等合計金七、五九〇、五〇九円の租税債権を有していたことは当事者間に争のないところである。
成立に争のない甲第二、三号証、証人内藤令次の証書により成立を認める同第四号証、欄外記載の「錦海桜建築用材買入状況」の部分の成立につき証人藤田七郎の証言によりこれを認め、その余の成立につき争のない同第五号証、成立に争のない同第六号証の一、証人星野正之の証言により成立を認める同第六号証の二、成立に争めない同第七、八号証、前記星野証人の証言により成立を認める同第九、一〇号証、前記内藤証人の証言により成立を認める同第一一号証、成立に争のない同第一三号証、前記内藤証人の証言により成立を認める同第一四号証、前記星野証人の証言により成立を認める同第一五号証、証人長野佳郎の証言により成立を認める同第一六号証、成立に争のない同第一七号証に前記各証人の証言を綜合すると滞納会社は訴外丸坪木材株式会社との間に山林売買取引をなし、その売買代金の一部として前記訴外会社より振出日昭和二九年一〇月二〇日、振出人訴外株式会社福久本店、額面金三一〇、九九六円、支払期日昭和二九年一二月二〇日、支払場所南都銀行大淀支店なる約束手形一通を受取りこれを被告が滞納会杜から同年一一月一〇日に交付を受け、更にこれを被告において同日自己の建築に係る訴外有限会社錦海楼の建物の木材代金の一部の支払に代えて訴外松阪木材株式会辻に裏書譲渡したこと、前記約束手形は滞納会社と前記丸坪木材株式会社との取引のうち約二、〇〇〇、〇〇〇円は脱税の目的のため双方が裏口取引とする協議がなされ、その取引の代金の一部として授受が行われたものであるから滞納会杜の正規の会計帳簿に記載されておらず、従つて滞納会杜と被告の前記約束手形の授受の事実も同会社の会計帳簿に表勘定として記載されていないこと、滞納会杜は前記のように裏取引をした結果これによつて得た現金を一部訴外株式会社百五銀行松阪支店に無記名定期預金としていたがそのうち一、五〇〇、〇〇〇円と二、〇〇〇、〇〇〇円の二口が昭和三一年六月一一日満期となつたのでその払戻を前記銀行から現金で受け、これを同日被告に対し簿外で貸付け、被告はこれを滞納会杜に対する自己の借入金債務の一部弁済として支払い次いで同日滞納会杜がその金を自己の前記銀行に対する手形貸付金債務の支払いに充てたことが認められ、他に右認定を左右するに足る資料がない。
よつて進んで被告の仮定抗弁につき按ずるに(1) 前説示のように被告が自己の債務を支払う手段として滞納会社から他人振出の約束手形の交付を受けるときはこれによつて滞納会社と被告との間に消費貸借が成立すると解するを相当とするから約束手形の授受による消費貸借不成立の抗弁は採用し難い又(2) 被告は杜員総会の認許を得ずして有限会社がそをの取締役に金銭貸付けてもその貸借は効力を生じない旨抗争するけれども、有限会杜法第三〇条の規定の本旨とするところは取締役がその属する会社の利益を犠牲として私利を図ることを防止し会社の利益を保護せんとする趣旨であると解すべきところ、一般第三者にとつては自己の取得しようとする権利がその以前において会社と取締役との取引によるものであつて果してその取引が杜員総会の認許を得たものであるかどうかの事情を窺知し得ないことが普通であり、斯る場合その瑕疵の存否をたしかめる負担を第三者に帰せんとするが如きは著しく一般取引の安全を害するものと云わねばならない。従つて斯る事情の下においては同条に抵触する取引も一般取引の安全を保護するため有効と解するを相当とすべく、本件の如く貸付債権を第三者たる原告が前記滞納税金を徴収するため昭和三七年五月二八日国税徴収法第六二条の規定により差押え、履行期限を同年六月一八日と定め、同法所定の手続により被告に催告し(被告に催告のあつたことは当事者間に争がない)該債権の取立権を得たことが前記甲第二、三号証と弁論の全趣旨により認められる場合は正に前説示の場合に該当するものと云うべく、従つて前示滞納会社より被告に対する貸付は有効と解すべきであるから被告の主張は失当である。尤も前示(1) の貸付金三一〇、九九六円については該貸付当時の昭和二九年一一月一〇日には被告は滞納会社の取締役でなかつたことは成立に争のない甲第一七号証と前記星野証人の証言により認められる本件においては被告の右主張はこの点において既に失当である。よつて結局被告の仮定抗弁は採用に値しないものと云わねばならない。果して然らば貸付金債権の合計金三、八一〇、九九六円及びこれに対する履行期限の翌日たる昭和三七年六月一九日より完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める原告の請求を正当として認容すべく、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、仮執行の宣言につき同法第一九六条を適用して主文の通り判決する。
(裁判官 浜田盛士)